課税標準を的確に把握し適正・公平な課税を実現するための仕組みとして、特定の者に対する支払者に、支払の事実の内容を税務当局に提出するよう義務づける、法定調書制度が存在します。現在、法定調書は「所得税法」、「相続税法」、「租税特別措置法」、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により60種ありますが、その中のひとつが「非居住者に支払われる不動産の使用料等の支払調書」(以下、「調書」とします。)です。当該調書は、非居住者や外国法人(以下、「非居住者等」とします。)に対して、不動産賃料の支払をする場合に提出が義務付けされますが、実務的に見れば、支店や駐在員事務所といった、日本法人の海外に所在する拠点が、国外に所在する不動産の賃料を非居住者等に対して支払う場合の調書の提出義務について迷う場合も見受けられます。
当該調書は、非居住者等に対して、国内において、国内で発生する所得(以下、「国内源泉所得」とします)の支払をする者に提出が義務付けられています(※1)。不動産貸付による賃料について見れば、国内にある不動産の貸付による対価が国内源泉所得に該当すること(※2)から、日本国外に所在する不動産貸付による賃料は、(国外源泉所得に該当し)国内源泉所得に該当しません。したがって、日本法人の国外に所在する支店や駐在員事務所が支払う、日本国外で賃借する不動産の賃料については、当該不動産貸付による賃料が国内源泉所得に該当しないことから、支払先が非居住者等であっても、賃料の支払者には調書の提出義務はないことになります。
(※1)所得税法225条1項八号 (※2)所得税法161条1項七号